オートレースマシンのハンドルについて
左右で高さが大きく異なる非対称な構造
オートレース用マシンのハンドルは、左回りの周回コースに特化するため、左側が高く右側が低いという極端な「左右非対称」の構造になっているのが最大の特徴だ。直線部も含めて常に車体を左に傾けながら走行するという、特殊な競技環境に由来している。もし一般的なバイクと同じ水平なハンドルを使用した場合、深いバンク角でコーナリングをする際に、内側となる左腕が窮屈になり、外側の右腕は遠くなってしまう。
あらかじめ左ハンドルを高く設定して懐に余裕を持たせ、逆に右ハンドルは低くして遠心力に対抗しながら車体を地面に押し付けやすいポジションを形成している。独特な形状により、選手は時速150km近いスピードでコーナーに突入しても、体勢を崩さずにマシンをコントロールし続けることが可能である。
ブレーキや計器類を排除したシンプルな構成
ハンドル周りの装備は、市販のバイクには必ずあるブレーキレバーやスピードメーターといった計器類が一切排除され、左手のクラッチと右手のアクセルのみという極めてシンプルな構成になっている。
レースに勝つために不要な機能は極限まで削ぎ落とされており、特にブレーキがない点は驚かれることが多いが、急減速による追突事故を防ぐためのルールでもある。
減速が必要な場面では、強力なエンジンブレーキと選手の高度なスロットルワーク、足を使ったバランス操作のみで速度を調整する。
また、メーター類がないため、選手はエンジンの微細な振動や排気音の高低、風圧から感じる体感速度だけを頼りにマシンの状態を把握しなければならない。情報の少なさが、選手の研ぎ澄まされた感覚をより一層際立たせている。
鉄パイプで自分好みに曲げる調整方法
ハンドルの角度や絞り具合の調整は、固定された規格に頼るのではなく、選手自身が鉄パイプなどを使って力づくで曲げ、個々の体格や乗り方に合わせて行うアナログな手法がとられている。
ハンドルはマシンの操作性に直結する重要なパーツであるため、既製品をそのまま使う選手はほとんどおらず、身長やリーチの長さに応じてミリ単位の微調整が施される。
レース場の整備エリアでは、万力にハンドルを固定し、長い鉄パイプを差し込んでテコの原理で曲げている選手の姿が日常的に見られる。ほんの数ミリ角度が変わるだけで、コーナリング時の体重移動のしやすさやタイヤへの荷重のかかり方が劇的に変化する。まさに、選手自らが作り上げた「世界に一つだけのハンドル」が、激しい順位争いを制するための操縦性を支えている。